4WDシステムの搭載に対応するためフロアセンターは従来より高く設計されているが、巧みなボディワークによって
外観上の違和感は極力抑えられている。車速感応式の電動可変タイプとされた。ボディタイプはデビュー当初よりクーペ、
タルガ、カブリオレの3種が提供された。
エンジンは従来の3.2リッターから排気量を拡大し、内径100mm×行程76.4mmの3,600cc空冷フラット6を新設計。
ツインプラグ化と圧縮比11.3の採用により、最高出力250ps/6,100rpm、最大トルク31.6kgm/4,800rpmを発生した。
技術的なハイライトとして、パワステ及びABSの標準化、そして従来のトーションバースプリングに代わる
コイルスプリング式サスペンションの採用が挙げられる。
これによりサスペンションジオメトリーの自由度が高まり、減衰特性の最適化が可能となった結果、従来型に比べてより安定した接地性と、
現代的と評される操縦安定性を獲得している。
カレラ4は、RRレイアウトが持つトラクション性能を維持しつつ限界域での安定性を高めることを目的に、
959型で培われた技術思想を量産モデル向けに再構成したフルタイム4WDシステムを採用した。
これにより直進安定性および旋回時の挙動は大きく改善されている。
一方、伝統的なRRレイアウトを重視する顧客の声に応える形で、翌年には後輪駆動のカレラ2が追加された。
カレラ4比で約100kg軽量な車重を活かし、より軽快でダイレクトなハンドリング特性を持つモデルとして位置付けられている。
カレラ2にはティプトロニックAT搭載車も設定され、スポーツカーにおける自動変速機の可能性を拡張し、
ユーザー層の裾野を広げた点でその意義は大きい。
964は、セミトレーリングアーム式リヤサスペンションとRRレイアウトを組み合わせた最後の911である。
セミトレーリング式はサスペンションストロークに伴うキャンバー変化が大きく、絶対的な接地性能では後継の993型で採用された
マルチリンク式に及ばない。しかし一方で、挙動変化が比較的リニアであり、ドライバーがタイヤの限界を把握しやすいという特性を持つ。
ポルシェの実験部門はリヤサスペンション取り付け部を中心にボディ剛性とコンプライアンスを綿密にチューニングし、
356以来の伝統である独特のトラクションフィールを高度な次元で成立させた。
964は、その思想をもっとも成熟した形で体験できる最終世代と位置付けられる。
1992年には大規模な年次改良が実施され、サイドミラーは空力性能を向上させたエアロタイプ(通称「ターボミラー」)へ変更されたほか、
ホイールデザインも従来のディッシュタイプから、5本スポークのカップデザインなどが導入された。
また1992年モデルからカブリオレにターボルック仕様が設定され、1993年にはスピードスターが追加されている。
2010年代に入り世界的なクラシックポルシェ市場の活況とともに、964は投機的側面を伴う急激な価格高騰を経験した。
かつては標準的なカレラ2が1万ドル前後で取引されていたが、ピーク時には10万ドル規模にまで上昇した。
完全なレストアには同等の費用を要することから、結果的に劣化個体の価格がフルレストア車の相場水準に近づいたとも言える。
さらに964 RSR 3.8やターボSといった希少モデルに至っては、一時100万ドルに迫る評価を受けるなど、
空冷911の中でも特異な存在感を示す世代となった。